講演録「藤井達吉の芸術」【7】
愛知県美術館企画普及課長(講演時) 木本 文平氏
コレクションのコレクターだけじゃなくて、実は著述活動家の方も注目しなければならない人物がいます。これは西川一草亭という華道の家元でございますけども、京都在住の方でした。そして、一方では、当時の読売新聞の中でも展評を書かれた著述家でもあったんです。大正2年に藤井達吉に注目し、読売新聞に藤井に関する展評をしているわけです。西川一草亭と言っても、ぴんと来ないと思いますが、実は、西川一草亭の弟が、津田青楓でございます。津田青楓は画家で、二科会とかその辺で活躍して戦前は、帝展関係の方へも参画していました。その西川一草亭が、藤井達吉の作品について語った一文を参考までに載せますと、次のものがあります。この一文は大正2年2月9日付けの『読売新聞』に「新しい装飾美術 藤井達吉の作品」と題して掲載されたものです。
「私が藤井達吉の名を初めて知ったのは、去年の春、京都の岡崎で青楓主催の展覧会が開かれたときだった。そのとき、氏は刺繍と七宝焼の灰皿か何かを15~6点も出してあった。それは、面白いとは言えなかった。殊に七宝は安っぽい面があって嫌だと思ったが、それでも在来の工芸品というものの系統・慣習を破って、直に作者その人の考えから直接に出た点があるのが快かった。今までの工芸品というものが、美術的とか装飾的とかいわれるものに限って、いやに気取った綺麗な磨きをかけた品を作った。これが美術品であるというような顔をしたのが気に入らなかった。が、藤井氏のを見ていると、まるで違っている。材料をむろん粗末なものが使ってあるし、仕事もぞんざいである。そして、今までの工芸品に見られない、(これが重要なことなんですが)人が作った、言い換えれば、作者の心情、人間の温かみが、ものの一つひとつに流露している。最後に、文展の絵は一つも買いたいと思わないが、藤井氏の作った工芸品は金があったら真に買ってみたい。そして、自分の傍に置いてみたいという欲が起こる」
この一文によって藤井は世間に注目されて行くわけなんです。藤井達吉は本当に独学です。独学の中で、よくぞあれだけの知識というものを得たものだということを、私自身も非常に感心するものであります。どうしてあのような形で、つまり、直接の師匠もなく学習していったんだろうまた覚えていったんだろうかというのは大変不思議に思います。
また時間が迫って来ています。こういう話だと2~3時間やりたいですけれども、後5分ぐらいの時間になっています。もうちょっと話しますと、これは藤井達吉の『美術工芸の手ほどき』博文館から出された、これが昭和5年、発行の本ですが、これは碧南にもあるかと思いますけれど、私は実は古本屋から入手しまして、結構高うございましたけれども、これを見ますと、ありとあらゆる分野の工芸についてその根源ルーツから全部記されているわけなんですね。まあよくぞまあ、こんなに勉強なさったもんだと、非常に感心するものであります。 <以下次の頁へ続く>
碧南芸術文化振興会設立総会記念講演(講演者:木本 文平氏、期日:平成13年2月)
(『碧南藤井達吉芸術文化現代』第1号〜第3号を補訂)
