碧南市藤井達吉現代美術館 藤井達吉について

飾り 講演録「藤井達吉の芸術」【6】

愛知県美術館企画普及課長(講演時) 木本 文平氏

 そういう意味合いで、実は、芝川コレクションというのは、私も美術史的な部分の中では『まぼろしのコレクション』と世に伝えられておりまして、それは全て焼失したと思ってましたが、実は残っているのでした。それも藤井の作品と劉生の数点だけしか残っていない。そこにはまだ富本憲吉さんの初期の作品もあります。これは、もういま奈良にあります富本憲吉記念館でも持っていないものも、その中にあります。そういうのをまとめた形で日本の近代工芸の前衛を実証するコレクションをまとめてぽんといれておくのが一番いいと思います。
 ですから、今後、碧南市にゆとりが生まれたときに、何か美術館とか、そういうものをお造りになれば、そのまとまった芝川コレクションを、これ時価になおしますと数億円すると思いますね。そういうものをまとまった形で何かいい橋渡しができるんではないかと言いつつも、愛知県美術館も密かに狙っております。あんまり碧南に回すわけにいかないなと考えています。というのは、芝川コレクションというのは、まとめてとりますと、これはすごいコレクションなんです。まだまだ現在あるんです。一部のものは大阪市の美術館に寄託されております。その中には、青木繁・岸田劉生も相当なものが入っています。坂本繁二郎もございますし、中核となるのは藤井さんの作品です。その作品は、ここで(碧南市文化会館)開催しました藤井達吉展ですね。その中の展覧構成の中核を占めた作品です。多分こんな作品知らなかったと思われる方が結構あったと思います。その辺のものが、実は芝川コレクションなんです。
 一方でもうひとつのものが西郷さんのものです。これも劉生のコレクターとして有名なんです。現実にいまそのお宅は横浜の三溪園の中で隣花苑という料亭をやってみえるわけなんです。もう健雄さんの息子の西郷健一郎さんは、もうお亡くなりになりましたけれども、生前お会いすることができまして、いろんな話を聞きました。そのときに劉生と藤井のものしか親父は集めなかった。はっきり言えることは、劉生はビジネス。藤井達吉は本当の意味で愛好。自分が本当に身近なものとして愛した。それが証拠に、劉生のものは全部売り払っちゃった。つまり、その劉生の作品というものは、生前中から金にまつわる話が多く、非常に商品価値が高かったもんですから、ひとつのビジネスとして成立したわけですね。昔から劉生の作品というのは、何かの差し押さえの物件とか、抵当権が入っちゃうとか、そのぐらいになる作品は最近でも新聞紙上、中国地方の某企業が3億円で劉生の作品を落としましたけれども、そんなような形で非常に換金性が強いということで、当時から劉生は投機の対象になっていた。でも、一方で達吉の作品は本当に心から愛する作品だということで、厄介なことに現在でも、その藤井の作品を使ってみえるわけですから、こちらもそういう意味では藤井さんの芸術姿勢というのは、生活空間のために、つまり、自分たちと生きている中に美を共有しようじゃないかというのが藤井の根本的なものだと思います。それが証拠に作られたものは、表から見ても、裏から見ても、ちゃんとどちらから見ても楽しめるように作ってあるし、そういうあたり心優しい芸術家の作品じゃないかと思っています。一方でそういう姿勢というものが、現在でも未だに活かされておりまして、はたと困ったというのは、美術館・博物館の立場からの発言ですが、あんまりしょっちゅう使ってもらいますと、作品がどんどん痛んで消耗して来ますので、将来的なことを考慮して使っていただきたいなあというのが美術館・博物館の学芸員としての立場でございまして、この辺が大変相反する苦しいところです。まあ美術館の展示と同じですが、展示すれば痛んで来る。なるべく痛まないようにしようとするのが展示の技術でございますけれども・・・。そういう中で実は現在も藤井の作品は、生活用品として使われている。そして、先ほど申しました芝川コレクションも、実は神戸のご遺族のお宅で今もって使われているわけです。ですから、最後に「これ大事にしてくださいね」と一言言って帰って来るのですけれども・・・。 <以下次の頁へ続く>

碧南芸術文化振興会設立総会記念講演(講演者:木本 文平氏、期日:平成13年2月)
(『碧南藤井達吉芸術文化現代』第1号〜第3号を補訂)

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